1、相続の承認と放棄
被相続人が死亡して相続が開始すると、相続人は被相続人の財産に属した「一切の権利義務」を承継することになります(民法896条)。
この「一切の権利義務」には、プラスの財産(不動産や預金など)の他、マイナスの財産(借金など)も含まれます。
したがって、仮に相続によって被相続人の「一切の権利義務」が当然に承継されるものとすると、特に被相続人がマイナスの財産(借金)のみを残して死亡した場合には、相続人には極めて不利益になります。
また、相続人によっては、プラスの財産であっても、その承継を望まないという場合もあります。
そこで、民法は、相続の承認と放棄の制度を設け、相続人に被相続人に属した権利義務を承継するのか(相続の承認)、拒否するのか(相続の放棄)の選択を認めています。
このうち相続の承認には、被相続人の権利義務を全て承継する単純承認(民法920条)と、相続人によって承継したプラスの財産の限度でのみ被相続人のマイナスの財産(借金等)を承継する限定承認(民法922条)があります。
相続放棄とは、被相続人の権利義務の承継をすべて拒否するというものです(民法939条)
2、相続放棄または限定承認をすべき期間
相続放棄又は限定承認は、「自己のために相続が開始したことを知ったとき」すなわち被相続人が亡くなったこと及び自分が法律上相続人になったことを知ったときから3ヶ月以内行わなければなりません(この期間は、一般に「熟慮期間」と呼ばれます)。
もっとも、相続放棄または限定承認をするかどうかは、亡くなった方の財産関係を調査しなければ決めかねることです。もし、3ヶ月以内に決めることができない場合には、家庭裁判所に対して、熟慮期間の延長を申立ることができます。
また、3ヶ月を過ぎてしまったから、絶対に相続放棄をすることができないというわけではなく、一定の場合には、3ヶ月を過ぎていても相続放棄が認められる場合があります。
諦めないで、当事務所にご相談下さい。
3、相続放棄の流れ
①戸籍謄本などの必要書類を準備します。
相続放棄の申述をするには、申述人の戸籍謄本、亡くなられた方の戸籍謄本・住民票除票等が必要になりますので、これらの書類を準備します。 当事務所に相続放棄の申述を依頼された場合には、弁護士がこれらの必要書類の取り寄せを行います。
②家庭裁判所に相続放棄申述書を提出します。
相続放棄申述書に必要書類を添えて、管轄の家庭裁判所に提出します。相続放棄申述書は家庭裁判所に用意されていますし、インターネットでダウンロードすることもできます。
当事務所に依頼された場合は、弁護士が代理人となって家庭裁判所に提出します。
③ご本人への確認があります。
家庭裁判所に相続放棄申述書を提出すると、裁判所からご本人宛に「相続放棄の申述書についての照会書」が届くことが一般的です。意思確認のためのいくつかの質問事項がありますので、これに回答して裁判所に返送していただきます。
④相続放棄の申述が受理されます。
ご本人への確認が終了すると、家庭裁判所で正式に相続放棄の申述が受理され、「相続放棄申述受理通知書」が送られてきます。必要に応じて、「相続放棄受理証明書」を発行してもらいます。
4、限定承認について
- 限定承認とは、先にご説明したとおり、相続によって承継したプラスの財産の限度でのみ、マイナスの財産(負債)を返済するという制度です。
- 限定承認の申述は、相続放棄と同様,相続開始があったことを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申述書を提出する必要がありますが、相続放棄と異なり、相続人全員で行なわなければなりません。
- 限定承認は、あまり利用されていませんが、限定承認が有効なケースとしては、以下のような場合があります。
- ①マイナスの財産が多いのかプラスの財産が多いのかはっきりしない場合
- ②マイナスの財産が多いものの,どうしても相続したいプラスの財産(自宅など)がある場合
- ③家業を継いでいくような場合に、プラスの財産の範囲内であればマイナスの財産も引き継いでよいという場合